| PROJECT STORY |
社内初の挑戦「ATWモノブロック」で
欧州市場への進出と
脱炭素社会への貢献を果たす。
1971年から海外市場に進出し、グローバル展開を積極的に行う富士通ゼネラル。
今や世界100カ国以上で空調機事業を展開。
革新的なモノづくりを通じて世界中のお客様に快適な生活空間を提供している。
各地域の特性やライフスタイルを理解し、環境に配慮した製品開発に取り組んでいる。
今回は、その一例として、
欧州市場における「ATW(Air To Water)(*注1)」製品の開発プロジェクトを紹介する。
欧州市場の風土や文化の違いもある中、どのような製品づくりを行ったのか。
プロジェクトメンバーたちに、その取り組みについて振り返ってもらった。
※1 「ATW(Air To Water)」… ヒートポンプ技術で作り出した温水を活用した暖房システム。
従来の化石燃料を用いた暖房機器よりも二酸化炭素の排出を抑えることができるため、地球環境にやさしい暖房システムとして注目され、特に欧州市場で需要が高まっている。
Sato Shota
Yasukochi Yuta
Kiyohara Ryusuke
Yoshida Takehiro
欧州は、いち早く「脱炭素社会」を掲げ、環境への意識が高い市場である。
そのような状況において、ヒートポンプ技術によって温めた水を配管に循環させ、床暖房やラジエーターから放熱して住宅全体を暖めるATWの仕組みは欧州で注目され、フランスをはじめとする各国で売上が急速に拡大している。
当社も現地の需要に素早く対応し、さらなる売上拡大を目指すべく、フランスの提携企業と合弁会社を立ち上げ、新たなATW製品の開発に取り組んだ。
そこで注目したのは、「モノブロック」という構造。
ATWモノブロックは、水熱交換機が室外機内に配置されている点が特長であり、一般的なタイプである室内側に水熱交換器が配置されるセパレートのATWと異なり、冷媒の配管工事が不要のため施工の容易性に優れており、各国で高いニーズがある。
こうして、欧州市場への進出の足がかりとなる「ATWモノブロック」の開発プロジェクトが始動した。
しかし、ATWの中でもモノブロックタイプの開発は社内初の試み。自社に知見が一切ないところからのスタートだった。現地と協同して製品を開発するにあたって文化の違い、言葉の壁……様々な問題が立ちはだかった。
「モノブロックタイプ」の大きな特徴は、室外機の中に水熱交換器(水と冷媒を熱に交換する機器)が収納された【一体型】という点にある。水熱交換器自体は、従来提供していた「スプリットタイプ」のATWにも使われているためノウハウはあったが、それを室外機に組み込むとなると、「モノブロックタイプ」独自の新たな技術が必要となる。また、熱交換の際に用いるポンプも見直しが必要であった。どちらも社内のノウハウだけでは不十分だったため、知見を持つ欧州側の開発メンバーとやりとりを重ねたのが安河内と清原だ。
これまでも海外とやり取りをすることはあったが、今回は、海外側からノウハウを教わるという側面もあり、これまでよりも深くコミュニケーションを取ることが求められた。安河内は水熱交換器に関する設計開発を担当し、清原はポンプを動かすシステムの開発を進めていった。
水熱交換器は、重要な部品であるため特に多くの意見を交わした。
「例えば、こちらは品質を担保するべく安定性を考慮した設計や部品を提案する一方、相手はどんどん新しいことにチャレンジしたいという意識が強く、新たな技術や部品の採用を提案してくるという場面がありました」と安河内。様々な種類の水熱交換器から、開発する製品に合ったものを選定するために、海外チームから提供される技術や知識を身に付けつつ、製品の省エネ性能・安全性・コストを考慮した機器の選定を行うことに注力した。品質確保と新技術への挑戦……。部品たったひとつにもそうしたやりとりをくり返し、お互いが本当に納得のいく選択を重ねていった。
また、清原は、当社初となる水ポンプ制御の検討を進めた。欧州側には当社で作成しているような仕様書はないため、実機で動作の確認をし、不明点を適宜相手に質問することで検討を進めていった。
水回路のセンサについては、欧州と日本とで電源事情が異なることから、現地でしか再現できない不具合も発生し、国をまたいでの詳細な状況確認に苦労したという。
このようにやり取りが密になるほど、言葉と文化の壁を感じることが多かったという。
しかし、この2人の実直なやり取りが、高効率の水熱交換器とインバーターの採用につながり、業界トップクラスの省エネ性達成を実現した。
一方、プロダクトデザイン担当は、欧州の市場調査を行っていた。日本と大きく違うと感じたのは、「庭」の存在だ。製品を設置する郊外の住宅では、絵画のような美しい庭を皆がとても大切にしているのである。そこに従来型の白い室外機を置くとなるとどうしても浮いてしまう。「それでは絶対に欧州では受け入れられない」とはっきり言われたという。
そもそも、現地ではまだガスボイラーが主流で、ATWに至っては使用率わずか2%。もともと室外機自体に馴染みがないのに、大切な庭に違和感のあるものを置くはずがないというのだ。
そこで当社が提案したのが、「ダークな色調」だった。「日本の室外機は、白い本体に黒いファンが付いていて、どうしても『機械感』があります。ファンが見えないように、ダークな色調で一体化させたらどうかと考えました」。ただし、「真っ黒」では違和感が出る。さまざまな黒の中から、庭に馴染む色合いを探していった。さらに、全面黒ではなく、温かみのある「ストーングレー」も配色。どんな庭にもどんな家の外壁にもフィットするようにと工夫を凝らした。
また、色だけでなく形状も見直した。従来の室外機には、誤ってファンに触れることがないようにと飛び出す形でガードが設置されている。それも違和感の原因になり得ると考え、すべてをフラットにした“純粋な立方体”のようなデザインに。
庭に設置する場合、側面を含めた「“立体美観”」が重要と考え、多面的にノイズを減らそうと考えたのだ。
――ただし、描いたデザインがそのまま形になるわけではない。理想のデザインが実現するまでには、かなりの苦労があったという。
「黒は熱を集める色ですからね」と佐藤。室外機の中にはたくさんの基板が入っており、温度が高くなりすぎれば壊れてしまうこともある。暑い日に使い続けるとどれほどの温度になるのか。果たして機能を保てるのか――? 「黒い室外機」というのは当時かなり異例で、データがない。手探りで進めるしかなかった。黒に塗装した室外機を屋上に設置し、夏の暑い日に動かしてみる。「白と黒、その中間色を用意して何度も実験をしていました」。実験を重ね、黒を濃くしたり薄くしたりという微調整を重ねていく。様々な「黒」を試していたが、塗料を変えることで予期しないトラブルが起こることもあった。
さらに、「フラットな形というのにも頭を悩ませました」と吉田。ただでさえ、水熱交換器を中に収めるという大きな難関があるのだ。その上で、外側に出ていたガードなども内側に収める必要が出てきたのである。ネジひとつ取っても、場所を変えるというのは容易ではない。設計にはかなり頭を悩ませた。
欧州に受け入れられるデザインと、高い機能性を両立させるために、チームは話し合いを続けた。こうしてついに「ATWモノブロック」が完成した。
プロジェクト開始当初から、メンバーは密にコミュニケーションを取ることを意識していたという。
海外と国内のメンバー間のやり取りにおいては、コミュニケーションの壁を越えて、意見を交換することで、多くのアイデアを積み重ね、共通の物差しとなる製品コンセプトを練り上げた。
一方、国内においても「デザインの担当者とここまで深く関わるのは初めてでした」と佐藤や吉田は話す。デザイン自体に関しても、「室外機はあまりデザインを変えることがないので、室外機に携わるのは初めてです」と語った。互いに知らないことばかりのチームだったため、室外機の役割やニーズ、欧州の文化などを共有することを心がけ、現地の環境に調和するという製品コンセプトに沿ったデザインを実装した。
「ATW」は、環境にやさしいばかりではなく、石油ボイラーや電気ヒーターと比較するとランニングコストを抑えられることも大きなメリットだ。導入が始まった欧州からは、コスト減に喜ぶユーザーの声が聞こえてきているという。文化の違いを乗り越えた「ATWモノブロック」が、これから欧州に広まってゆく。
海外向けの製品開発に携わることも多いという4人。開発に対する姿勢の違いや、庭を大切にする文化など、カルチャーショックを受けることも少なくない。しかし、それこそがやりがいにつながると口を揃えた。違いを乗り越えるのは容易ではないが、違いに触れることそのものが面白いのだ、と。
今後もグローバルに展開していくうえで、その地域の文化に思いを至らせ、環境に配慮した製品開発にチーム力を発揮して取り組んでいく。
※所属や内容などは、取材当時のものです。