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| PROJECT STORY |

空調機
プロジェクトストーリー

「知らないこと」が強みになる
――エアコンの常識をひっくり返した、
業界初の「熱交換器加熱除菌」機能

富士通ゼネラルの主力エアコン「nocria(ノクリア)」は、
業界初となる「熱交換器加熱除菌(加熱除菌)」機能を搭載して、新シリーズがリリースされた。
加熱除菌は、エアコン内の熱交換機に付着した細菌やカビ菌を10分間55℃以上に湿熱加熱することで実現される。
これまでどのエアコンも持ちえなかった画期的な機能であり、清潔を求める市場のニーズとも合致して、瞬く間に広がった。

今や全機種展開もされ、ノクリアと言えば加熱除菌という評価を受けるほどだ。
しかし、その開発の過程は決して平たんではなかった。
あまりに常識外れの発想のため、エアコンに必要不可欠な冷凍サイクルのスペシャリストからは実現性を疑問視されていた。

加熱除菌はどのような過程を経て常識を打ち破り誕生したのか。
加熱除菌のプロジェクトメンバーたちが当時のことを振り返った。

profile

  • 奥野 大樹

    Okuno Hiroki

  • 西川 順之佑

    Saigawa Junnosuke

  • 横尾 謙

    Yokoo Ken

  • プロジェクト当時は、室内機の「清潔」に関わる新機能開発を担当。
    現在は、新規事業創出を目指した「空気から飲み水を作る装置」の技術開発や、当社のコア技術を目指した、清潔に関する新たな技術の研究を行う。
    夫婦と二児の父として4人+猫で毎日を賑やかに過ごす。子どものプレゼントに買った球体の立体迷路に自らがハマり中。
  • プロジェクト当時は、微生物(細菌やカビ)を扱う試験とエアコン使用時の室内環境評価試験を担当。
    現在は、部署異動し、部門間の情報共有の仕組み作りなどを推進、主に社内データを扱う業務行う。
    休日は、動画配信サービスで映画を見て過ごす。コロナが収まれば、会社の体育館でたくさん人を集めてバドミントンをしたい。
  • プロジェクト当時は、カタログなどの販促物の立案・作成を担当。
    現在は、主にユーザー様からのお問い合わせ対応を行っている。
    会社の健保で奨められたダイエットアプリで体重とウエストの記録をはじめ、体重・ウエストともにダイエットに成功中!

エアコン内部の除菌を実現し、これまでにない清潔さを目指す。

ノクリアの新シリーズが発売された当時、エアコンの清潔さに関するニーズが高まっていた。特に夏場になると、エアコン内部にカビ菌が繁殖し病気の一因になっている。そんなニュースも耳目を集めていたところだった。なにもエアコンの使用と病気を紐づける証拠があるわけではない。因果関係は不明な点もあるが、そのように感じるお客様が増えてきたのも事実で、「どうにかしなければ」との思いが、奥野にはあった。そのころ、奥野は清潔機能を先行開発するチームのリーダーを務めていた。メンバーは奥野を含め3人で、いずれも入社の浅い若手が中心。どこをどうすればエアコンの清潔さが保たれるか。実機を分解するなどしながら3人で議論した。エアコンはその性質上、冷房運転をすると結露によって水が出るのだが、水に濡れた部分(湿気の多い環境)に細菌やカビ菌が繁殖しやすく、特に熱交換器は結露水が多く、乾燥しづらい状況になっていた。清潔さを保つキーとなるのは熱交換器だと奥野たちは考えた。

業界にはこれまでもクリーン運転を搭載したエアコンはあり、細菌やカビ菌の「抑制」程度はできていた。しかし、「抑制とは結局、細菌やカビ菌の繁殖を遅らせているだけで生き残っているので、清潔だとは言い難いのです」と奥野。目指したのは「除菌」だ。家電製品において除菌は、生きている細菌やカビ菌を99%以上取り除くことで初めてその言葉が使える。従来のクリーン運転とは一線を画した機能を奥野たちは求めていたのだった。熱交換器の除菌を実現するために何をすれば良いか探る中で、細菌やカビ菌の繁殖要因である熱交換器の水を逆に利用して殺菌できないか、という発想が生まれた。そして、55℃以上で10分間“湿熱”加熱することで細菌だけでなく、しぶといカビ菌も99%以上除菌されることがわかった。特にカビ菌は乾燥に強く、仮に空気の温度だけを90℃以上にしたとしても耐えることができるが、水を伴う“湿熱”の場合は55℃で容易に殺菌することができる。「人間も90℃のサウナには入れても、55℃の風呂には入れませんよね」。これと同じというわけだ。

熱交換器を“湿熱を利用して”55℃以上で10分間加熱する――。このアイデアを実現すべく、プロジェクトは動き出した。ここから先は奥野たちだけの力では対応できないことが多い。関係部署の協力を仰がなくてはいけないのだが、ここに大きな落とし穴があった。

いきなりの壁が出現。実現性に乏しいと猛反対を受ける。

「夏場に加熱なんて、何を考えているんだ」。エアコンの心臓部分とも言える「冷凍サイクル」のスペシャリストに話を持ち掛けると、そう一蹴された。スペシャリストは社内で名を知られる重要人物。それだけに言葉に重みがあった。熱交換器が濡れるのは夏場だが、そもそもエアコンは夏に55℃の高温に上げることを想定していない。奥野たちのアイデアは冷凍サイクルのスペシャリストには到底受け入れられるものではなかったのだ。「とてもじゃないが夏場の条件で運転を行うには負荷も大きすぎる」と猛反対された。

実は奥野たちのチームには、冷凍サイクル開発経験者がいなかった。だからこそ、「常識外」と言える発想ができたのだろう。「指摘されたことは、冷凍サイクルを熟知し、経験を積んでいるからこその視点でした。スペシャリストの視点というものが、その時初めてわかったんです」と奥野。しかし、だからといって引くつもりはなかった。アイデアを実現するには、スペシャリストの助力が欠かせないのだ。「首を縦に振るまで諦めない。開発の必要性と自分なりの解決アイデアを示しながら粘り強く説得し、『できるかどうかはわからないが…』と条件付きでようやく賛同を得ました」。商品先行開発部は新しい機能を生み出すことがミッションであり、新しい発想を色々と取り入れていこうという機運が高まっていた時だった。当時はそのスペシャリストも商品先行開発部の別チームに所属していたため巻き込みやすい関係だった。その意味で「とても運が良かったです」と奥野は語る。

プロジェクトへの冷凍サイクルのスペシャリストの参加はとても心強かった。ひとたびメンバーとなれば率先して相談に乗り、スペシャリストならではの見地からプロジェクトを前進させた。
しかし、だからと言って、プロジェクトがスムーズに進んだということではない。常に壁にぶつかり続けたのだ。

泥臭い検証の繰り返しで、特許技術が生み出された。

「課題は自分たち専門外の人間が気づかなかっただけで、次々に出てきました」と奥野は言う。中でも、もっとも困難だった課題の一つが、55℃以上を10分間維持する方法だ。維持するには放熱による温度調整も必要となるが、放熱のため室内に風を送ると室温が上がる。 夏場に室温を上げてしまうとお客様に不快感を与えてしまう。この課題をどうクリアしたか。「泥臭く実験を繰り返しただけです」。メンバーだった一人、西川はいう。ポイントとなるのはファンの制御で、検証を繰り返すことで最適な制御の仕方を見つける。こうした泥臭い検証の繰り返しが、後に特許技術につながることになった。「新機能や新製品というと、一つのひらめきで一気に新しいものを生み出したように感じるかもしれませんが、実際には地道な作業の連続ですよ」と西川は続ける。事実、ほとんどの課題はひたすら実験を繰り返すことで、解決されていったのだった。

こうして加熱除菌は約1年間のプロジェクト期間を経て完成し、市場に送り出された。完成した時の気持ちは「うれしいというよりほっとした」と奥野も西川も口をそろえる。コツコツと一歩ずつ前に進んでいった者ならではの実感なのだろう。

発売当初、加熱除菌は新シリーズの目玉というほどでもなかった。清潔へのニーズは確かにあったものの、どこまで受け入れられるかは未知数だったからだ。潮目が変わり出したのは、発売後2カ月が過ぎたころから。「家電店の売り場から、『評判がいい』と声が聞こえ始めました」。国内営業部門の横尾は言う。「購入の決め手は加熱除菌」とのユーザーアンケートの結果も増えていった。市場に評価された要因を横尾は「『加熱』というわかりやすい訴求ができたからでしょう。エアコンにとっては斬新な言葉で、除菌の効果が高いことも感覚的に理解できたのだと思います」と分析。加熱除菌はやがて富士通ゼネラルの主力武器となり、全機種展開されるまでになった。

固定概念にとらわれることなく、柔軟な発想を。

「もし私に冷凍サイクルの知識があったら、とても加熱除菌をやろうなんて思わなかったでしょう。でも、新しいものを生み出す時は固定概念に縛られないことが大事なんです。その上で、成功すると信じて前に進むしかありません」。プロジェクトを振り返り奥野は言う。「エアコンの素人だからできたことです」と謙遜するが、先行開発に関わり続ける奥野には、新規性を追求する者の自信と熱意が垣間見えた。

西川は「私のような若手新人が先行開発に配属され、会社を代表するような開発を手がけることができたのは、僥倖としか言いようがありません。少人数のチームだったため、幅広い業務に関われたことも幸運でした。また、部署を超えた多くの方とつながりができたのも大きな財産です」と語る。きっと素直な感想だろう。だが、逆を言えば、誰にでも同様のチャンスは広がっている、ということもできるはずだ。最後に横尾は「エアコンはまだまだ発展の余地があります。お客様のニーズを満たす新機能をもっと出してほしいと思います。特に若い人の力には期待しています。ぜひ加熱除菌のような素晴らしい開発を手がけてください」と、これから入社する新たな仲間に向けて、いかにも営業らしいエールを送った。

 

※所属や内容などは、取材当時のものです。