| PROJECT STORY |
業界初の「小型GaN(ガン)モジュール」で
未来を拓く。
正解がないことへの挑戦を、共に。
富士通ゼネラルグループの電子デバイス事業を担う富士通ゼネラルエレクトロニクス(FGEL)は2021年6月に、
注目の素材GaN(窒化ガリウム)を用いたモジュールを世に送り出した。
小型GaNモジュールは業界初の開発で、FGELの持つ高度な技術で実現させたのだ。
GaNは半導体部品の主流となっているシリコンに変わる素材として大きな可能性を秘めている。
一方、実用化・量産化はまだこれからの段階。むしろ真の意味での開発が本格始動したと言っていいだろう。
小型GaNモジュールがどのような製品や用途で活用されるのか。
あるいはどのような世界を創造できるのか。日々模索・検討している。
今回、小型GaNモジュールに携わるメンバーが開発の背景、未来に馳せる思いを語った。
Ito Shuichi
Kikuchi Hidekazu
今から少し前、2017年ごろから富士通ゼネラルは本格的に新たな事業を模索し始めた。ちょうど大変革の波が業界に押し寄せてきた時のことだ。その後、変化が激しく先の見えないVUCAの時代に突入したことは、よく知られるところだろう。一定の規模のある企業であっても、これまでと同じでは通用しない。変わっていかねば、いずれ母体を支えきれなくなる。富士通ゼネラルは次の事業部の「柱」を作ることを急いでいた。
当時、電子デバイス事業部には新たな事業として複数の案があった。今はモジュール開発に力を注いでいるが、実は「別のものを考えていました」と伊藤は言う。富士通ゼネラルには半導体部品のモジュール開発の技術はあるものの、パワーモジュール業界では後発となる。「何の武器も持たず参入するわけにはいきませんでした」と菊池は説明した。
状況を一変させたのがGaNの存在だ。業界にとって新しい素材で注目もされていた。一方、取り扱いが難しいという欠点もある。既存のモジュール開発を行う企業にとって、当たり外れのある新素材に手を出すのは戸惑われるところだ。しかし、富士通ゼネラルには良くも悪くも「何もありませんでした」と菊池は話す。折よく米国Transphorm社と共同開発の話が持ち上がり、「高耐圧GaN-FET」チップを搭載したパワーモジュールの開発に乗り出した。事業構想から3年、2020年に開発を始動させ、2021年に満を持して業界初となる小型GaNモジュールを世に送り出したのだった。
現在、半導体部品の主流となっているのはシリコンだ。シリコンを使うのが当たり前で、他の部材が入る余地がないようにも見える。小型GaNモジュールは画期的な製品ではあるが、そのメリットと優位性はどこにあるのだろうか。
菊池はこう説明する。「GaNはスイッチング性能に優れ、電力損失を抑えながら電力の供給・遮断ができます。細い電線に電力を通すと熱くなるでしょう。GaNの場合は細い電線にもかかわらず熱くなりません。つまり、電力を逃していないんです」。伊藤によればGaNの性質は時代の要求と合致しており、「社会的な意義」もあると言う。「電力損失の大幅低減を実現できるので、環境に対する負荷を減らせます。効率的な電気の活用で、サステイナビリティな社会へ貢献できます」と力を込めた。
小型GaNモジュールは産業機器、産業ロボットなどでの活用を見込んでいる。大きな電力供給を必要とする機器のほうが、メリットを活かしやすいからだ。しかし、「用途を限定するつもりはありません。現在は市場に問いかけ、可能性を探っている段階です」と伊藤は付け加えた。家電に使えるかもしれないし、データセンターでの活用も考えられる。電気自動車向けワイヤレス給電も視野に入ってくるだろう。
実は小型GaNモジュールの開発は終わったわけではない。これから実用化・量産化の段階に入っていく。「むしろこれからが本格的な開発と言ってもいいかもしれません。発表した小型GaNモジュールは言ってみれば試作品で、形や大きさですらも仮のものです」と伊藤は語った。既に伝えたように富士通ゼネラルでは電子デバイス事業の新たな柱を作ろうとしている。小型GaNモジュールは今後、「事業部の売上3~4割を占めることを目指しており、人員も予算も積極的に投入されています」と菊池。会社としての期待は非常に大きい。もちろん、その分のプレッシャーがあるのも事実だろう。
今後、さまざまな業界のニーズを集め、ニーズに応じた設計、開発、量産を進めていく。もしかしたら、まったく想定しない用途が出てくるかもしれない。菊池は「例えば、ブラウン管テレビが液晶テレビに変わったように、小型GaNモジュールで大きなインパクトを残すのが理想です」と未来への思いを馳せた。エアコンで知られる富士通ゼネラルは、かつてテレビや冷蔵庫などさまざまな家電を作っていた。撤退後、目新しい製品は出していない。それだけに新しいものへの思いが強くある。
伊藤は「少し古い考えかもしれませんが」と前置きした上で「オールジャパンの製品、ものづくりを実現できればと考えています。先端の技術は海外で作られることが多いですが、素材関連は日本に強みが残る分野です。強みを活かして、グローバル競争にも打ち勝っていきたいですね」と熱弁を振るった。
小型GaNモジュールがどのような発展を遂げるか。「正解はありません」と菊池は言う。何をすれば良いのか、どこに行けば良いのか、ほとんど何もわかってはいないからだ。「正解がわからないものに日々向かい合いながら、手探りで可能性を広げようとチームのメンバーが一丸となっています。すべてがチャレンジです」と菊池は強調した。
新規事業は必ずしもうまくいくとは限らない。それも「事業部の柱」となるほどに育てようとなると、容易なことではないのは明らかだ。知恵を絞らなければならず、常に仮説と検証を繰り返していかねばならないだろう。しかし、だからこそ創造性の高い仕事ができる面白さがある。さらに「今はまだ少数精鋭ですので、一人でニーズの掘り起こしから設計開発、量産に携わります」と伊藤。製品開発の最初から最後までに関わるため、完成した時の手応えは、計り知れないほど大きくなる。
「正解のないもの」に挑むのだから、これまでの経験が活かしにくいということがある。そのことは同時に、経験の浅い若手や新入社員でも高い成果を残せる可能性を示唆しているだろう。新規事業の立ち上げに携わる機会はめったにない。壁にぶつかることばかりかもしれない。しかし、今は新しい価値を求める時代だ。新規事業に携わった経験は間違いなく今後に活きてくる。どれだけ価値のあることか、ぜひ想像してほしい。「一緒にチャレンジしましょう」と、伊藤と菊池は力強く呼びかけた。
※所属や内容などは、取材当時のものです。